第15章 猫とまたたび 【煉獄】
消え行く鬼を確認して、俺は鬼の奥にいる人影に駆け寄った。
「大事はないか?」
月光に照らされ、確認できたのは若い女性の姿だった。
下の方に白い百合の花が大きくあしらわれた黒の着物に、半衿には赤。
産屋敷家の子供達を彷彿とさせるような、綺麗に切り揃えられた肩までの黒髪。
微かな光に照らされたその女性は、それはそれは美しかった。
血の気があまり感じられず、白く見えるのは
たった今、得体の知れない生物に遭遇したからか…。
「大丈夫か?」
もう一度俺が話しかけると、ゆっくりとこちらを向いた。
だが違和感を感じるのは、
彼女の瞳が全く揺らがないことだった。
怖い思いをした時、少なくとも驚いたり
動揺した時には、人間の目は揺らぐ。
しかし、彼女の瞳はそんなものは一切感じず
じっと…俺の事を見つめていた。
「煉獄様!!」
隊士の呼ぶ声で我に帰った俺は、彼らに彼女の処置を頼み
その場を後にした。