第13章 鳥籠の鳥 2 ❇︎ 【煉獄】
嗅覚で覚えた情報は、何よりも深く印象に残る。
あれからまた5日。
杏寿郎さんは、いつも通り明るく話してくれるし、愛も伝えてくれる。
だから、お付き合いする前と変わりないんだけど…
やっぱり…
そんな私に限界が訪れた。
夜、いつものようにベッドに入る。
ギリギリまでテストの用意をしていた杏寿郎さんは、パタンとパソコンを閉じて、少し遅れてベッドに入ってきた。
すると、ふわりとあの香りが鼻を刺激する。
その香りを感じた瞬間、私の中で『抱いてもらえる』という期待が身体中に駆け巡った。
「おやすみ。」
「お、おやすみなさい。」
とは言ったものの、きっとキスをして抱きしめてくれる。
それから私の身体をあの大きくて温かな手が触れてくれる。
そう思っていたのに。
(あ、あれ?)
触れても来なければ、「おやすみ」からの言葉もない。
確かにあの香りだってした。
なのに、杏寿郎さんを見ると私に背を向けて眠っている…。
「ね、ねぇ?杏寿郎さん…」
「ん?どうした、眠れないか?」
杏寿郎さんは、少しこちらに顔を向けて問いかける。
眠れるはずがない。どれだけ待てをさせられていると思っているのか。
「あの…しない…の?」
普段の私からは絶対にしないような質問。
でも、私はもう我慢の限界が近かった。
会話もしてくれるし、普段の生活となんら変わりない。
でも、彼は徹底して私に触れなかった。
指一本も。
「…すまないな、今日はしない。」
彼から出たのは拒否の言葉。
そんな風に断られたことがなかったし、
何より、こうなるのが怖くて言えなかったのに…。
「そっか…おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」
私は杏寿郎さんに背を向けて、静かに泣いた。