第12章 恋に変わるまで 【村田】
村田の水車が鬼の血鬼術を斬る。
しかし、いまいち威力が足りていない。
「俺だって、やればできる男だ!
油断さえしなければ大丈夫!!」
自分に言い聞かせるように叫び、日輪刀をカチャッと握る。
鬼はまた奏に髪を伸ばす。
「きゃぁ!村田さん!」
「水の呼吸 肆ノ型」
「うちし…」
つるっ
「お」
ズザ———ッ
村田は打ち潮を出そうとしたが、奏の元へ急がねばという思いと、力みすぎたせいで盛大にコケた。
「………!!!」
恥ずかしいとガバッと顔をおこすと、村田は奏の前まで滑り込んでいた。
そして、間も無く到達する鬼の攻撃。
(間に合わない!!せめて、せめて奏さんは!!)
村田は己の身で奏を庇うように立ち上がった。
そして、運良く刀が当たってくれと言わんばかりに刀を振り下ろした。
ザンッ…
幸いにも刀は当たり、一番攻めてきていた髪の毛は切れた。
しかし、まだ何本も向かってきている。
次の攻撃が村田に届きそうになり、もうだめだ…と思った時。
「拾壱ノ型 凪——」
スッと村田の前髪をかすかに揺らし、静寂が訪れる。
目の前に現れた半々羽織。
黒く長めの括られた髪。
「とみ.…おか…」
冨岡に斬られた鬼はいつの間にかバラバラになっていた。
「……よく、護ったな。その娘の話を、ちゃんと聞いてやれ。」
そう言って、また消えていく水柱の姿。
「俺があんなに手こずったのに、一瞬かよ。」
村田はガクッと肩を落とす。
結局、自分の力はそんなものなのだと。
同期の冨岡は一瞬で、一つの型だけで十二鬼月を倒した。
下弦の陸だというのもあるだろうが、
俺には何度も型を出しても致命傷は与えられず、肝心なところで転ぶような。
(あーぁ。やっぱ冨岡には敵わないな…。)
ふっと笑って奏は大丈夫かと振り返る。
「奏さん、だいじょ…「かっこいい…」
声をかけるとポーッと惚けている奏。
その姿を見て、また肩を落とす。
「…あぁ。冨岡にはなかなか会えないけど…伝えておきますよ。」
もうそれしかできない。
(でも、冨岡は話を聞いてやれって言ってたな…どういうことだ?)