第11章 そういうところ 【伊黒】
「貴方のことに決まっているではありませんか。」
どうしたのかと首を傾げる奏。
伊黒はポカンとした顔をしている。
奏が自分を好いてくれている。
なんと喜ばしいことか。
…だがしかし。
「俺はその資格がない。」
「…え?」
「俺も、君を…奏を好いている。しかし、俺にはその資格がないんだ。」
奏は伊黒の言っていることが理解できない。
伊黒様も自分を好いてくれている…。
でも、その資格がない?
伊黒は少し街灯の灯りが当たるところに移動して、ゆっくりと口元の包帯を取った。
「それは…」
現れたのはもうくっついているが、口の端から大きく裂かれたような傷跡。
それはまるで蛇のようだった。
「俺は、蛇の姿をした鬼へ媚を売り、生計を立てていた醜い一族の血が流れている。この傷はその鬼が揃いにするために裂いた跡だ。こんな穢れた血の流れる、醜い俺が君の横にいてはいけないんだ。」
伊黒は詳しい話をしてくれた。
自分の生まれた地を…自分の生い立ちを酷く悔やんでいた。
そして、今は鬼殺隊に入り、鬼を斬っていることも。
奏はその話を聞いて涙した。
伊黒はもう奏の前には行けないなと思いながら、その様子を見ていた。