第11章 そういうところ 【伊黒】
(はぁー…緊張した!そして、相変わらず綺麗な瞳だわ…!!
今日はたくさん触れてしまった…どうしよう、手も額も洗いたくない!!)
そう思いながら深呼吸していると、両親がニコニコとその様子を見ていた。
「…奏、伊黒様って素敵な人ね?」
「うん…!って!」
思わず頷いてしまったが、母に鎌をかけられた。
「奏、伊黒様のことが好きなのね。お母さんたちはあなたが心から思う人と一緒になってもらいたいわ。」
「そ、そんなんじゃ…!!」
首を振る奏だったが、頭に思い浮かべる。
伊黒様と一緒になれたらどれほど嬉しいか。
毎朝「おはよう」と。眠る時には「おやすみ」と挨拶を交わす。
そんな幸せ、夢のようだ。
しかし、奏はこの店に来る客としての伊黒しか知らなかった。
なにを職にしているのかも、どんな生活をしているのかも
想い人がいるのかも…。