第11章 そういうところ 【伊黒】
翔太郎が言うあの人。
(こちらに向かっていると言うことは、きっとうちに用なんだわ。)
奏はソワソワと棚を移動して、とろろ昆布の棚を綺麗に整える。
何故か。
それは…
「息災か?邪魔するぞ。」
「あら、いらっしゃいませ。」
そう言って入ってきた黒と白の縦縞模様の羽織を着た
伊黒様に失礼がないように。
別に伊黒様は厳しい人でも、お偉いさんというわけではない。
ただ、想いを寄せているだけである。
伊黒様は毎回とろろ昆布を買って行かれる。
そんなに好きなのかしら…?
確かに美味しいけれど。
そう思っていると、いつの間にか私の横に来て
とろろ昆布の棚を見ていた。
「あっ、いらっしゃいませ。」
私が慌てて挨拶をすると、左右で色の違う綺麗な瞳をこちらに向ける。
「久しいな。息災だったか?」
「は、はい。健やかに過ごしておりました。」
「それは何よりだ。」
ほんの少し柔らかな微笑みを見せてくれる。
ちょっと下がり気味の眉は鋭いとも取られかねない目力を和らげてくれている。
「伊黒様も…お元気でおられましたか?」
「あぁ。何事もない。」
「それは…何よりでございます。」
今の私はきっと真っ赤だ。耳まで熱い。