第11章 そういうところ 【伊黒】
街にある乾物屋。
街といっても賑わっている通りから少し外れたところで、ひっそりと営まれている。
私はこの乾物屋の娘。
両親と歳の離れた弟とで頑張っている。
しかし、私も18歳。
そろそろ好い人でもいないものかと周りが気を揉み始めた。
「奏、ごめんね。
店の手伝いばかりさせてしまって。遊びたい年頃でしょうに。」
「ううん、大丈夫よ。気にしないで。」
奏はにっこり微笑んで、昆布の品出しをする。
そろそろ秋の味覚が美味しい季節。
この時期はお吸い物や煮物に使う、出汁昆布や干し椎茸がよく売れる。
そうこうしていると、10歳の弟、翔太郎が帰ってきた。
「父さん母さん、ただいま帰りました!!」
「おかえり。楽しかったかい?」
「はい!今日は魚の呼吸法について学んできました!」
魚は肺ではなくえら呼吸なのだと熱弁を奮っている。
優しい両親はうんうんと頷き話を聞いてやるが、流石話にそれでは仕事にならない。
「こらこら、もうその辺にして着替えてらっしゃい。
夜寝る前に、姉さんにも教えてくれる?」
「はーい。あ!そうだ、姉さん!」
翔太郎がちょいちょいと手招きをして、耳を貸せと言っている。
「ん?」
「………」
「も、もうっ!揶揄うんじゃありません!」
「へへーっ!」
翔太郎は悪戯っぽく笑いながら家の中に入っていった。
——もうすぐあの方がいらっしゃいますよ——