第7章 初恋 【悲鳴嶼】
「なァ、今の娘って…」
「あぁ。おそらくな。」
にこにこと炊き込みご飯を、手渡す店の娘。
この店には何度か訪れるが、彼女の声を聞いたことがなかった。
「お姉さん、名前は?」
宇髄がこそっと聞くと、掌に「奏」と書かれた。
「言わなくていいのか?」
冨岡が教えなくていいのか気にする。
それを、宇髄は制し首を振る。
「あんなに鮮明に覚えてるのに、気付かないと思うか?」
「そうですよ。そんなんだから冨岡さんは…」
「……。」
ちらりと悲鳴嶼をみると、伊黒と何かを話していた。
しかし、その口元は綻んでいる。
「ありゃ、知ってんだなァ。」
「なんだっていいんだよ。本人たちがそれで良けりゃ。」
「しかし!彼女はすごいな!
鬼殺隊、最強と呼ばれる悲鳴嶼殿を、ただの男にしてしまうんだ!」
「しー!…たしかに、ほんとすげぇわな。」
いつもは鬼殺隊のリーダー的存在として
威厳を発揮している悲鳴嶼。
先程話をしている時は、
本当に懐かしい恋を思い出す、ただの男に過ぎなかった。