第7章 初恋 【悲鳴嶼】
その夜。
行冥と奏は、住職に呼ばれ部屋へと訪れた。
「すまないな、大事な話があるんだ。」
そう言われた瞬間、行冥の胸は嫌な風にざわめき出した。
「奏を養子にしたいという人が現れた。」
予感はしていたが、聞きたくない言葉だった。
心臓がドクンドクンと音を立てている。
昼間の男のことなのだろう。
奏は納得しているのだろうか。
「行冥、そんな顔をしないでおくれ。」
住職の言葉でハッと我に帰った。
そんなにすごい顔をしていたのか。
すると、行冥の手を奏がとり、文字を書く。
「わたしは、そのやくそくなの。」
つまりはここにいるのは養子にしたいという人が現れるまで。
「そう、だったのか。」
行冥のは落胆した。
今日の喜びから突き落とされたようだった。
「でも、わたしはうれしかった。」
養子に迎え入れてくれる人がいて、安心したのだろう。
穏やかな色をした奏はこの展開に後悔などしていないようだった。
「そうか、わたしもうれしいよ。」
そう言って2人は軽く手を握り、離した。
住職は、寂しくなるが明日の昼に早速迎えが来ると伝えた。