第7章 初恋 【悲鳴嶼】
「ありがとう。わたしも、たのしい。」
そう言って微笑むと彼女の笑顔がまた感じられた。
その後も奏は自分のことを話してくれた。
歳は行冥の一つ下10歳。
好きな食べ物は羊羹。
親が鬼に襲われた時、鬼狩り様に助けられた。
そして、その鬼狩り様に住職の所に連れてきてもらったそうだ。
だから、自分も歳と好物を教えた。
炊き込みご飯が好きだと伝えてると、
「たんじょうびに、つくってあげる」
と書いてくれた。
住職は料理が苦手で、あまり手の込んだものは作ってくれなかったが、時々もらってきてくれる炊き込みご飯が美味しくて、いつしか好物になっていた。
「たんじょうび、いつ?」
「8がつ、23にち。」
「もうすこしだね。」
もう少しといっても、まだその日には2週間近くあった。
行冥にとっては、この時間こそが長く続いてくれれば良いと思っていた。
そう、この2人の時間がずっと続いてくれれば…と。