第7章 初恋 【悲鳴嶼】
それから、奏は少しずつ感情を表せるようになっていった。
また1ヶ月経った頃に、奏にどうしてここに来たのかと聞かれた。
「りょうしんが、しんでしまって。」
そう言うと、奏はすまなそうな空気を見せる。
そして、行冥の掌に指を滑らせた。
「おにに、ころされたの?」
「ちがう、びょうきで。」
母は出産の時と住職に聞いていたが、まぁこれも病気ということにしよう。
「わたしの、りょうしんは、おににころされた。」
行冥の掌に書かれた文字。
そこに確かに鬼により殺されたと記された。
噂には聞いたことがあり、住職も必ず夜になると藤の香を焚く。
「夜になると人喰い鬼が出るからな。
絶対に夜には藤の香を絶やしてはならぬ。」
そう言い聞かせられていた。
自分の家族を目の前で殺された。
心に負った傷は大きかろう。
その事が、彼女から笑顔を奪ったのだと分かった行冥は、グッと拳を握る。
その拳を見つめていた奏は、また行冥の掌を向けさせて、文字を書く。
「こわかった。かなしかった。」
彼女の悲痛な胸の内。
そうだろうな、と奏の方に顔を向ける。
「でも、いまはたのしい。
ぎょうめいくんと、なかよくなれたから。」
そう掌に書かれた。
そして、手をぎゅっと握られた。