第7章 初恋 【悲鳴嶼】
しばらく、あははと笑いあったが、行冥は思わず息を呑んだ。
奏が、笑っている。
初めて会った日から、この1ヶ月間
仲良くなって、話すことも増えたが
笑ったことがなかった。
そして、「ふふ」と僅かだが、声を聞くこともできた。
何より、奏の笑った空気は
愛嬌たっぷりな可愛らしい女の子のものだった。
行冥の心にブワッと南風のような暖かい風が吹く。
(なんだ?今のは…)
「…どうしたの?」
行冥の掌に感じる文字。
「なんでもない。だいじょうぶ。」
そう答えて立ち上がり
びしょ濡れになった2人は怖いものはなく、存分に遊んだ。
その間も奏は時折笑顔を見せ、行冥の心を騒がせた。
しかし、ここまでずぶ濡れになって帰ってくるとは思わず、2人の姿を見て住職に叱られたのは言うまでもない。