第9章 陳腐な七色、儚い紅
「じゃあ本当に祓った数と階級は?」
「覚えてないよ」
「そんなわけねーだろ。人に貸したお金は一円単位で覚えてるくせに」
「それ笑うところ?」
「違う。答えろ」
私の記憶力を信用してくれているのはうれしいが、本当に覚えていないのだ。
そう訴えること3回。
やっと信じてくれた。
少し曲解していたけれど。
「覚えてないほど、多いってことでいいんだな」
「そういうんじゃ…」
「そういうことだろ」
1回の任務で殺してしまった呪霊の数は平均的。
ただ、その任務の数と呪霊の強さが桁違い。
トータルでみたという意味では、五条の言っていることが正しい。
「そういえば、2個目の約束の話になった時、おかしかったよな」
「そう?」
五条との約束、『決して千春を表に出さないこと』を守るのはとても大変だった。
千春はいつだって私のことを守ってくれるおかげで、危なくなる前に自分の力で何とかしなくてはならなかったから。
「もしかして、上に千春のことバレた?」
「…どう思う?」
「そんな大事なこと、なんで言わないんだよ!」
私は知らん顔して横を向いた。
結果として、五条の怒りを煽ることになると分かっているけれど。
「自分から言った?」
「そんなわけないじゃん。私は約束を守る女の子だよ」
約束は守る。
五条との約束なら、死んでも守る。
しばらく、お互い黙っていた。
五条は相変わらず小石で遊んでいて、私は横を向いていた。
「千夏」
「ん?」
「千春のことを言ったなら…、任務のレベルも高かったんじゃ…」
半信半疑な様子だった。
私が無傷であることと、考察のどちらが正しいのか、考えているみたいだ。
けれど、すぐに針は振り切れた。
五条は私の性格を知っている。
「だから、報告書に嘘書いたのか…!」
「だから、って何?」
「千春がいたなら、強くても1級くらいか?」
「まぁ…」
「まさか特級とかないよな」
「それはない。この世界に来てから、ほんと、ごくたまにしか…」
「たまに?」
おかしいだろ、と五条が漏らす。
普通だったら、特級呪霊なんて見ることすらない。
こういう”特別”はあまりうれしくない。
「なんか、一周まわって冷静になったわ。呆れすぎて」