第9章 陳腐な七色、儚い紅
私だって呆れてる。
自分の置かれた状況の不安定さに、思わず笑ってしまう。
「……待てよ。お前、千春呼んでないって言ったよな」
「…」
「弱いくせに…」
「おい」
五条は私の手を取って、じっくりと体を見てきた。
穴が開くほど、じ…っと。
「傷は?」
「あるわけないでしょ」
「だよな」
パッと手が空中に投げられた。
「泣いただろ」
「いつの話?」
「任務中」
「泣くわけねーだろ」
「泣いただろ」
「だから…」
「千夏に聞いてんの」
ぶわっと体が熱くなり、頬が熱膨張したように感じた。
「泣いたよ、何回も泣いたよ……!!」
五条が、ほらみろ、という風に見てくる。
「聞いてないレベルの呪霊がいるし、その子たちのほとんどが話してくるんだよ…。あっちは私の話聞いてくれないし、殺そうとしてくるし…」
「うん」
「そんなレベルに呪言が効くわけないし、逃げ回ってたら体力切れて…」
「千春は?」
「約束だもん。呼んでないよ。でも…」
「ピンチのときに助けてくれた」
「…ごめんなさい」
千春はいつでも私を守ってくれる。
私の身に危険が降りかかる前に、助言してくれたり、ピンチの時には私の代わりに呪霊を殺してしまったり。
私は千春がいる限り、死ぬことは無い。
「怖かった。何度も死んじゃうと思った」
死ぬくらいなら千春を呼ぼうと思った。
けれど、それは五条との約束を破ることに加え、二度と皆と話せなくなることを示していた。
たとえ生きていても、皆に会えないならここで死んだ方がマシだと思っていた。
私の震える声が消えたとき、ふと前を見ると五条が下を向いていた。
元来から危機察知能力、不穏な空気を感じる、などといった優れた勘が備わっている人間。
そして、私もその人間の1人。
五条から漏れている感情のオーラをひしひしと感じる。