第9章 陳腐な七色、儚い紅
「上に呼び出された時、なんて言ったんだよ」
「…私の大事なものに触れなければ、言うこと聞くって言った」
「それで、こんなボロボロになるまで働かされた、と」
泣きじゃくるわけでもなく、ただ涙が頬を通過するだけ。
こんなにも落ち着いて泣くなんて。
顔がぐちゃぐちゃにならずに泣くなんて、初めての事だった。
「だって、皆と過ごすにはそう言うしかなかった。今日だって凄く楽しくて…。この時間がずっと続けばいいのにって」
「そうだな」
「明日になったら……、また会えなくなる。もう一生、会えなくなるかもしれない」
「一生は言い過ぎだろ」
そんなことない。
可能性としては十分にありえる。
「…まさか」
私が何も言わないから。
五条は気づいてくれたみたいだ。
「報告書にはそんなこと書いてなかっただろ」
「なんで五条が報告書の中身知ってんの」
「そんなの見ようと思えば見れるだろ」
確かに、普通の報告書だったら、盗むなりすれば簡単に見れる。
けれど、今回は”私”の任務の報告書だ。
あの先生でも少しは隠そうとするだろう。
そして、五条は『報告書にはそんなこと書いてなかった』と言っていた。
これらが示すことはただ1つ。
(隠蔽か…)
私はきちんと報告書に書いた。
『予定外の呪霊発生』と。
ちゃんとおおよその階級も記入した。
つまり、先生が上に提出した段階で嘘の報告書と交換され、表に出るのは嘘の報告書のみ。
「あれは嘘。だって、数とか階級とか覚えてられないじゃん?」
ここはお偉いさんがくれた、ありがた迷惑な殺意を利用して、強がらせてもらおうと思った。
けれど、五条が強がらせてくれない。