第9章 陳腐な七色、儚い紅
「悪ぃ。皆先帰ってくれ」
「ご、五条…!?」
みんなが呆れたような驚いたような顔をしても、全て無視。
「これってもしかして…」
「…ニコッ」
「やっぱり!五条さん、ファイトーー!」
灰原はそういった後に、小さくグッドマークを私に向けてきた。
灰原、そういうのじゃないと思うぞ。
傑も、硝子も笑ってないで否定してやれ。
チラチラと後ろを振り返りながらも、足を動かす。
五条は何も説明してくれない。
「ねぇ、何?」
「いいから」
「そんなこと言われたら期待しちゃうよ〜?」
私的には灰原の勘違いを冗談にしたつもりだった。
冗談にしないと意識しそうだったから。
しかし、このテンションが五条の鼻についたみたい。
「ヘラヘラすんな」
謝る隙もないほど、ピリピリとした雰囲気を感じる。
花火をやっていた場所に戻り、五条の足が止まってから謝罪の言葉を口にした。
私は切り倒された木の上に座り、五条は止まることを知らずに歩き回っている。
一応、人1人座れるスペースを隣に確保しておこう。
「…くそっ」
何に対して怒っているのか分からないが、小石に怒りをぶつける五条。
「何に対して怒ってんの?」
「自分」
対象が私でなくて安心したのも一瞬で、これはこれで嫌な気持ちになる。
「面倒だから率直に言う」
「はい、どうぞ」
「なんでこんな状況を受け入れてんだよ!?」
本当に率直な言葉だ。
率直すぎて、思わず笑ってしまった。
「なんでって…」
「ヘラヘラすんな」
「いや、笑っちゃうでしょ」
「そういうことじゃねーって」
隣に座るのかと思いきや、私の前で仁王立ち。
丁度月を五条の頭が隠し、腹癒せのように月の光は五条の顔を避けた。
「この状況を本気で受け入れてんなら、そんな顔で笑うな」
そんな顔ってどんな顔、と聞くと、今の顔と返される。
今の顔ってどんな顔、と聞くと、泣いている顔と返される。
泣いてないよ、と言えば、泣いてると言われ。
泣いてないってば、と返すと、頬を撫でられた。
知らぬ間に、涙が流れていた。