第64章 生き方
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和田さんと別れてから12秒。
彼女に声が届かなくなった距離だ。
「彼女と何を変な約束してるんですか」
怒って、る?
「私が死なないと、和田さんが殺されちゃうんだって」
「は?」
言葉が乱れてる。
でも、注意はできない。
「私は死なないよ」
「当たり前です」
七海ちゃんの顔からは、何を考えているのか想像できない。
想像できたことが、今まで何回あったか。
できなかったことを数える方が、遥かに速い。
「…イラついてるね」
『そういうのは指摘しない方がいい』
「あ、ごめんなさい」
硝子を初めとしたみんなが、私の状態を確認する時、まず言葉遣いに注目するらしい。
言葉遣いはあまり意識はしていないから自分の言葉がどのように変わるかは分からないけれど、七海ちゃんを見て「確かに言葉遣いで機嫌がわかるな」と、勉強になった。
「…一回ここら辺で降りましょう」
「了解です」
すたん、と地に足をつける。
七海ちゃんも、千春も同様だ。
その瞬間、私は現実を生きていないんだな、と思った。
それと同時に安心した。
(もし目に見えている全てが現実だったら、私は死んでやる)
それは具体的な形を持った意思。
私の中に確かにある。
けれど、それは表に出したら消えてしまう、厄介な塊。
「では、1つずつ、確認していきましょう」
ほら、これは現実じゃない。
だって、ここが現実世界なら七海ちゃんはこういうはずだ。
”二手に分かれましょう”
って。
『らしくないな』
「何がです?」
『いや、何でもない。行こう』
また安心して、差し出された千春の手を握った。
温かかった。
『しかし、面倒だな』
「壊しちゃう?」
『中に人がいたらどうするんだ、バカ』
千春の声はいつ聞いても落ち着く。
絶対に間違ったことは言わないから。