第64章 生き方
「…?どうしたの?」
「え?」
八乙女先輩が無垢な表情で私の顔を指さした。
触ってみると、滝のような汗が。
「あー。私、こういう体の機能バグってるんで。気にしないでください」
「……伊地知のこと、心配?」
これまた、何も知らない子供のような質問。
伊地知のことは知っている。
だって、彼が刺された時通話していたのは────
「それとも、莉緒さん?」
汗を拭くふりをしながら下を向いて諦めたように笑う。
「…いつも引きこもりのくせに、なんで今日に限って渋谷に来てたんでしょうね」
「来てたの?」
「まぁ、こっち方面にはいないみたいですけど。連絡もつかないし…ほんと…」
『まぁ、お前の立場で一般人誘導なんてしないだろうな』
この姉妹は気遣いというものを知らない。
私なんか、呼び方を変えようか悩んだのに。
「和田さん」
「はい?」
弱気に笑って、八乙女さんは言う。
「私に今すぐ死んで欲しい?それとも、この状況を変えてから死んで欲しい?」
死ぬのは受け入れてるんだ、と心のどこかで思って。
そんなもの受け入れるなよバカ、と罵る。
ちらりと七海先輩を見るけれど、じっと見るだけで口出しはしない。
これは疑惑か。
それとも、信頼か。
「伊地知は大丈夫。七海ちゃんが運んでくれて、硝子が診てくれてる」
「…そ、すか」
「莉緒さんは分からないけど、絶対大丈夫」
「…根拠は?」
「ない」
何を言っているんだ、この人は。
「……私、八乙女先輩の発言を信じて、いいことがあった試しがないんですよね〜」
「みんなそう言う。大体悪い方向へ進むって」
なのに。
いや。
だから…か。
「八乙女先輩」
「…はい」
「このやばい状況、早くどうにかしてください」
この人にしか頼れないんだ。
「分かった。任せとけ」
ただのゲームのように、八乙女さんは勝ちをとりにいく。
まるで、不可能なんて知らないように。
それなら、私はチートを使わせてもらうしかない。
「…ウルハを呼びました」
「え、沖縄から?」
「東京行の飛行機飛んでないんで、時間かかると思うけど、後3時間くらいで着くと」
「最高じゃん」
ほら、またのこの笑顔。
なんで笑っていられるんだろう。
「和田さんと話してたら元気出てきた」
ほんと、バカみたい。