第9章 陳腐な七色、儚い紅
二人が話している間、私たちの間でも会話が進んだ。
「傑に話したのか?」
首を振った。
傑と初めて任務が一緒になった日のことを、五条に話した。
傑がぶつけてきた疑問の内容と、その質問に対して何も答えてないこと。
けれど、きっと私の反応を見て、頭のいい傑は察しているであろうこと。
「大丈夫。約束は破ってない」
「…もしかして、二つ目のほうも?」
とっさに顔を上げてしまった。
反射的と言おうか、はたまたわざとだと言おうか。
ただ一つ言えるのは、回答に困ったということ。
そこに一隻の助け舟が。
「みなさーん!」
制服を着ていない灰原に会うなんて珍しい。
元気よく向こうから走ってきた。
「まだですか?もう待ちくたびれましたよ。あ、八乙女さん!久しぶりですね!」
「おひさー」
どさくさに紛れて、五条から離れた。
灰原とハイタッチすると、子犬のような笑顔で見つめられた。
そう思ったら、餌をもらえなかった子犬に瞬間変化。
「…もしかして、泣いてました?」
「ないない。ここで寝てたら目にゴミ入って」
「えっ!ここで寝てたん、ですか…」
「結構気持ちいいもんだよ」
今度やってみな、とお勧めすると、後輩特有の愛想笑いで流されてしまった。
「それはそうと、遅いですよ!何分待たせるんですか!」
「すまないね。千夏が中々起きなくて」
「こんなところで寝るからです!七海なんか、血管浮き出てましたよ!」
なんで私が怒られるんだろう。
今日だけで三種類もの灰原の表情を見ることになるとは。
「早く行きましょう。それで、七海に怒られてください」
「なんで私が…。灰原達も花火するの?」
「そうですよ!夏油さんたちに誘われたんです。早く行きましょ!」
「うわっ。押すなよ…」
私たちが向かっているのは七海ちゃんがいるところ。
灰原の言っていることが正しければ、あの冷たい目で見られること間違いなし。
でも、不思議なことに、それほど嫌がっていない。
正直に言うと、微塵も思っていない。
本当に。