第62章 私がそう言った
ギィ……
五条悟が来た。
”…”
”…”
お互い一言も話さず、五条悟は千夏の紐を解く。
きっと彼の中には私に対する怒りもあっただろう。
どうしてこうなるまで何もしなかったんだ、と。
”これ、千夏がやったの?”
千夏は何も言わなかった。
五条悟の一言で泣きわめくまでは。
”帰ろう”
”うぇ、っ……ご、じょ、くん〜…”
それから、2人は濃い1日間を過した。
あの五条家に1泊したのだ。
もちろん、”おばば”は怒りすぎてクラクラしていたが、千夏の存在は秘密に宿泊できた。
……言い換えると、五条悟がとても寂しい人間だということになるが、そこは置いておこう、どうでもいい。
そして、その宿泊のあと、2人は二度と会わないことを誓った。
主に、五条悟が無理矢理に、ということだが、千夏は嫌がりながらも、自分に拒否権がないことを分かっていたんだろう。
”じゃあな”
”…”
それから何年も、千夏は五条悟との約束を守り続けた。
”千春のことは絶対誰にも言ったらダメ。俺との秘密”
理由は”五条くんに嫌われたくないから”だとか。
本当に健気な子だ。
頑張ればいつか五条くんが戻ってきてくれると、思っている千夏。
自分と関わることで傷つけたくないから、一生千夏に近づかないと……千夏を呪術界から遠ざけることに振り切った五条悟。
その2人の願いは交わることなく────
そして、どちらも望まなかった結果が訪れた。
”千夏…。本当にいいのか?”
”…頑張るよ。辛くても頑張る”
千夏は呪術師として五条悟と生きる道を選び、五条悟はその手で大切なものを守るために、千夏を避けた。
”五条、にっ、無視された…”
”泣くな。忙しかったんだろ?”
外では強気に振舞っても、根っこは変わらない。
最初は泣いてばかりだった。
でも、
”しょーこがねっ!” ”傑ったら酷いの!”
初めての友達
”冥冥さんこわぁい” ”The 893、夜蛾!”
初めての頼れる大人。
”子犬みたい” ”ムス男って呼ぶぞ!?”
初めての後輩。
失ったものは大きいけれど、得たものも少なくなかった。
だから、千夏は頑張れた。