第62章 私がそう言った
当時はどこかでふたりが仲睦まじく遊ぶ姿を見たのだろうと思っていたが、数年後にこれが禪院甚爾の差し金出会ったことを知る。
千夏は身代金だか、なんだかの目的であっさり誘拐され、命の危機を迎える。
けれど、千夏は全く怖がらない。
この子の恐怖心は、私達が死んだ日から滅多に表に出ない。
呪力が暴れないでくれたのは助かったが、如何せん状況が悪い。
この男を殺せば簡単に逃げられる。
けれど、また千夏に悲惨な現場を見せる訳にはいかない。
だから、五条悟に賭けた。
毎日のように届く花冠がないことを不思議に思ってくれれば…
なんなら身代金等の情報が直接彼に届けばいい。
けれど、それらの情報は全て大葉初枝が遮断していたことを、後に知る。
「今日は空模様も悪いので、あの子も来ませんよ」とか。
犯人からの電話は伝えなければいいだけだ。
確信的であるとは言いきれないが、7割くらいの確率で大葉初枝が敢えて伝えなかったと、私は考えている。
ただの女の勘だ。
そして、時間だけが過ぎていき────
千夏に殺意の籠った刃物が向く。
正直焦った。
呪詛師は、必要の無い殺しは仕事の邪魔になるという考えを持っていると思ったから。
だから、仕方なかった。
私はこの日初めて、千夏の呪力を使って術式を使用した。
術式を千夏に与えたのだ。
そして、千夏に言えと命令する。
”五条君は普通の男の子だよ。特別なのは私の方。死ね、カスめ”
と。
あの時から千夏は心を狂わせている。
この時の笑い方は何よりも狂気に満ちていた。
血溜まりを見ても静かに涙を流すだけ。
嗚咽を我慢する。
声を出して泣くのは目立ちたいからだ、とクラスメイトに馬鹿にされたから。
誰にも嫌われたくない。
そんな気持ちの表れだったと思う。