第62章 私がそう言った
──ちゃん。
千夏はとある呪霊をそう呼んだ。
出会った時はなんの害もない呪霊で、千夏の呪力の圧で弱ってしまうほどの強さだった。
いざと言えば直ぐに祓えるし、何より、何より…
千夏がとても楽しそうだったから。
千夏が笑うから。
呪霊を祓えなかった。
もう会えないよ、なんて言った時には、1人でグズってお母さんを心配させるし。
”祓うしかない状況”を自作することも考えたが、2人がどこに行くにも一緒なせいで不可とした。
この頃は千夏が呪力を意識しないせいで…。
それに加え、私が代わりに呪力を操作しすぎたせいで、千夏と1ミリたりとも離れることは出来なかった。
だから、誰かにこいつを祓って貰う必要が生まれるのに時間はかからなかった。
すぐに関係を切ることができる、かつある程度信用出来る人。
時間の経過と術師のリスク。
天秤が一方に傾くのには、あまり時間は要らなかった。
”…し、したい”
”だからぁ、何を?”
呪霊が自我を持ち始めたことをきっかけに、私は乗り気ひとつなく彼を頼ることにした。
千夏のおかげで私はある程度動けるようになっていたため、いざというときは周りを傷つけても千夏を助ける覚悟を持って…。
”ふふっ。五条くんに会えるっ”
”久しぶりだから、余計に楽しみだろ?”
”うん!だから、行っちゃダメって言ってたんだね。我慢って大事なんだ…”
千夏の方はいくらでも誤魔化せる。
問題はただ1つ。
千夏にバレずして、どのようにあの五条くんとやらに話しかけるか。
”…これでいいの?”
”ああ。ここで待ってろ”
門前に花冠を置かせた。
危険は承知の上で、少々呪力を残し…。
20分ほど経った頃だったか。
千夏の集中力はとうの昔に切れていて、面白い話で場を繋いでいるとき、あの五条くんが門からでてきた。
花冠を手に取って、真っ先に隠れている千夏の方を見る。
そして、キョロキョロと周りを見渡してから、小走りでこちらに向かってきたのだ。