第62章 私がそう言った
それから、時折この男は千夏に絡んでくるようになったが、特に害を与えることなく千夏を眺めるだけ。
簡単に殺せる相手ではないが、なにか仕掛けてくるのなら直ぐに殺してやると、常に警戒した。
一方千夏は、五条家に侵入することをやめなかった。
2回目に侵入した時にはあの子に会えることなく日が暮れ、3回目は呆気なく見つかり間違えて入ってしまったと言い訳をして逃げた。
そして、4回目。
”また来たの?”
”あーそーぼ”
”無理”
”どうして?”
”…あのなぁ。お前、俺が誰だか知ってるだろ?”
”…?五条くんでしょ?”
千夏にはこの子の素性や、この家の高貴さはもちろん、呪術とはについて、全く何も教えていない。
”…とにかく無理。帰”
”坊ちゃん!”
この声の持ち主は、この子の継母か?
詳しくは知らないが、茂みの中の千夏たちに近づき、この子を庇った。
そして、千夏の頬を殴った。
”ちょ、初枝さん…!”
”坊ちゃん!どうして…!”
千夏を連れて逃げるか。
体が動く前、この子が初枝と呼ばれた女の口を塞いだ。
”大丈夫だから。やめてっ”
”ぼっ…”
考えてもみなかったこの子の行動に少し驚きつつも、すぐさま千夏を抱き抱えてその場から逃げた。
私の存在がバレたかもしれないが、もうあそこには行かせない。
”大丈夫?痛くない?”
”平気だけど、ちょっとびっくりしちゃった”
そのせいで花の冠を落としてきてしまった、と。
花の冠は千夏がよく好き好んで作るもので、あそこに行くたびに目立つ所に置いていたけれど、今回は地面に落としてきてしまったらしい。
”五条くんにあげたかったのになぁ…”
”きっと気づいてくれる”
”ほんと?”
”本当だよ”
次の日も学校をサボった千夏は公園に行き、「もうあの坊ちゃんの元へは行かせない」と言っているにも関わらず、懲りずに冠を作る。
あの子に会わせなければ平和だと思っていた。
けれど、千夏の寂しさと好奇心が、さらに千夏を危険に晒す。