第62章 私がそう言った
例の男の子を含めた数人が廊下に姿を現した。
流石の千夏も口に手を当てて静かにしてくれたが、緊張からか呪力の揺らぎが大きい。
慌てて呪力放出量を大きくしたけれど、これではバレてしまうかもしれない。
千夏の安全と千夏の健康を天秤にかけながら、何とかやり過ごそうとしたのだけれど、またまた千夏はいらない度胸を披露する。
”ごじょーくーん…!”
何を考えてるんだ、バカっ!
怒鳴りたくなる気持ちを押えて、これ以上の愚かな行動をしないことを願う。
この千夏の声が聞こえたのか。
坊ちゃんと呼ばれた奴は歩みを止めて、集団から離脱した。
千夏はそれをチャンスと捉えたのか、小さな体を必死に伸ばして、僅かながら手を振る。
”…初枝さん、御手洗行ってくる”
”はい。ついていきま…”
”大丈夫”
近くの部屋を横断するのが近道なのか、すぐ隣の部屋に姿を消した坊ちゃん。
廊下から人が居なくなるのを確認すると、坊ちゃんはそそくさと出てきて、サンダルに足を通した。
”ごじょー…くん”
”何やってんの”
ジト目で見下ろされてもニコニコな千夏。
”約束したから会いに来たっ”
”お前が一方的に言ってきたんだろ”
”やっぱり綺麗な目だね”
”話くらい聞け、バカ”
いつ殺されてもおかしくないこの状況に冷や汗が流れる。
(実際に流れることはないのだが)
”なんで入れたの”
”柵登って…”
”バレる前に帰って”
千夏に言葉を教えたのも、読み書きを教えたのも私。
だから、千夏の学力はきちんと把握してるけれど。
”これから遊ぶのに?”
”は?”
”ちゃんとブランコ予約してきたからね!”
何年も一緒にいるのだから、千夏のことはなんでも知ってるはずだけれど。
この子の考えていることは未だに読めない。