第62章 私がそう言った
”あの子のおうち、知ってるの?”
離さねば。
”ここかぁ。大きなお家だね”
千夏を1番に考えろ。
”…はぁい。遅くなっちゃうから今日は帰る……明日にする…”
あの子供は五条家の一人息子。
そして、あの目は六眼…。
相伝術式を引き継いでいるのならば、それは正しく────
”どうしたの?お顔怖いよ”
この子を呪術界から離したければ、絶対に奴に会わせてはならない。
そんな簡単なことくらい分かっているのに。
”千春?”
”大丈夫。早く帰ろう、お母さんが待ってるぞ”
”ご飯なにかなっ!ハンバーグがいい!”
常にその時のみを考えている彼女にとって、明日の予定は立てても直ぐに忘れてしまう。
だから、今回もそのパターンであるはずなのに、悪い予感はいつだって当たるものだ。
”本当に行くの?”
”もぉ!行くったら行くの!”
本気で止めなかったのは、この頃の千夏がお母さんにガミガミ怒られ機嫌が悪かったからでは無い。
どうせ五条家の敷地に入れないと思ったのだ。
あそこには優秀な呪術師が何人もいる。
そんな所に千夏が入ってしまえばすぐに見つかる……あるいは、そもそも結界がはられているかもしない。
そんな最強の砦を築いている五条家本家であるが……。
この子は簡単に侵入してしまった。
裏にある小さな扉を利用して、さも当たり前であるように敷地を駆け抜け、広い庭へ足を踏み入れた。
わぁ、ちょうちょ!
なんて思ったのだろう。
モンシロチョウ目掛けて一直線に走る千夏は、運良く誰にも見つかることなく庭を進む。
大きな植木が千夏を隠してくれていることも、幸いだった。
この場所で私の気配を悟られてはならない。
だから、話しかけることが精一杯。
”帰ろう”
”まだ会ってない”
コソコソと話す中でも、いつ気づかれてもおかしくないと、緊張感は消えない。
存在がバレてもいいから、一瞬でここから連れ出すか。
そんなことを考え始めた時だった。
「いいですか。坊ちゃんは…」
「分かってるって。何回も言わなくていいよ」