第61章 封
『…この人は死ぬまでずっと努力した。閉じられた世界で飛び立とうとした。でも……裏切られた』
ち、はる。
「…自分以外の人間を信じたのが馬鹿だった」
『……どこかで聞いたセリフだろ?』
そんな言葉、聞いたことない。
「全部、何もかもが嫌いだった」
聞いたことなんて。
「だから誓ったの。私は」
”私だけの幸せを願うって”
──悟くんだけの幸せを願うの──
「千夏ちゃんは私の分身みたいなもの。だから」
「違う」
私は、違う。
「確かに私は寂しかった、苦しかった。辛かった、悲しかった。でも、私はひとりじゃなかった」
あなたとは違う。
「私は自分の幸せなんてどうでもいい」
ただ、私を愛してくれた人が幸せになれば。
「どうでも、いいって…」
「…ママがどんな人生を送ってきたかは知らない。誰に裏切られたのかも知らない。でも、大好きな人に裏切られる気持ちは…分かる」
「はぁ?大好きって…」
「違うの?大好きだから、裏切られて辛いんでしょ?」
ママの爪が肩に食い込む。
「そんなわけない」
『いいか。千夏はお前とは違う。逃げてたのはお前の方だ』
「逃げてた?私が?」
『じゃあ、どうして抗うのをやめた』
「…何を知って」
『何も知らない。でも、教えてくれた』
「誰が」
ママの力が緩んだその瞬間に、千春が私を後ろに倒し、あの、特別な姿に変わる。
そして、美しい姿で私の肩を抱く。
『五条悟』
悟の名前…。
「…はっ……」
悟はママのことを知っていたの?
「ねぇ、千春」
『どうした?』
「どうして悟は…」
『それは後で話そう』
優しく、優しく頭を撫でられたら、それ以上言えない。