第9章 陳腐な七色、儚い紅
「あー、もう俺、先戻ってるからなー」
しんみりした雰囲気の中、五条が声を上げてくるっと背を向けた。
「どこ行くの?」
「どこだと思う?」
「分かるわけないでしょ」
立ち止まった五条は踵を返し、私の耳に手を添えてささやいた。
「みんなで花火するんだ~」
夢の余韻が残っていたか、単にさっきまで考えていたからか。
夏を象徴する単語に瞬時に反応し、目を輝かせる。
「えっ!いいな!」
「千夏も強制参加だから」
「強制されなくても行く、やる!」
五条と輪をつくって飛び回る。
ねずみ花火と線香花火はあるだろうか。
そんなことを考えていたら、視界に二人の姿が入った。
「硝子たちもくる!?」
「まぁ…」
「よっしゃー!久しぶりにみんなと過ごせる!」
無理やり硝子の手を掴み。
一方では五条が傑の手を掴み。
大きくなった輪で、再度飛び回る。
「千夏。私たちの話はまだ終わってないんだけど」
「え、あ…うん」
徐々に速度を落とし止まる輪。
メリーゴーランドに乗ったときにも、似たような残念感を感じる。
「えっと、話すと長くなるんですが。簡単に言うと、少ーし暴れちゃって、上の方々に目を付けられまして…」
「それくらいなら、あの先生が教えてくれるはず」
「嘘つくな」
「ついてないよ。やだなー」
あははと笑いながら、次の嘘を考える。
こんなことで二人が信じてくれないことは分かっていた。
本当のことを言えるなら言いたいけれど、これ以上尺度のおかしい任務に巻き込まれたくない。
そろそろ理性を保てなくなる。
「……」
「……」「……」
「…私が頼んだ」
「千夏!」