第61章 封
2人はなんの話しをしているのだろうか。
その答えをくれたのは、驚くことに千春だった。
『落ち着いて聞いて欲しい』
「うん」
これほどまでに荒れた状況だと言うのに、3人で大人しく話し合っている。
先程までの緊迫した状況はどこへ行ったのだろうか。
『この女は』
「紅」
『いいだろ別に』
「よくない。死人にも名前はある」
千春が押されるなんてこれまた珍しい。
悟相手にも簡単に主導権を譲らないのに。
『この紅さんは』
「…言いにくいなら言わなくてもいいよ?」
『いや…』
「もう、ウザったいな!」
『あ、おまっ…!』
紅さんは私の肩に手を置いて、耳元でコソッと声を漏らす。
「私はあんたの母親」
わたしは、あんたの、ははおや。
「お腹を痛めてまで千夏ちゃんを産んだの」
おなかを、いためて。
「ん?」
「は?」
「…ちょっとー。この子、馬鹿すぎるんじゃない?」
『まあ』
「何それ。私の血を引き継いでいながら?」
自分のお腹に手を当てて、何度も言葉を反芻する。
何度も、何度も。
「なぁに、その顔」
紅さんの顔に、雰囲気に既視感があったのは、自分と似ていたから?
「私の、ママ?」
「まぁ」
私には優しい親がいたから。
産みの親なんて形式的にカウントしていただけなのに。
「でも、そう呼ばれるのキモイからやめて」
事情があるとはいえ、わたしを捨てた人の事なんてどうでもいいと思っていたのに。
「…だ、きついても、いい、ですか?」
紅さんは千春の反応を待ち、髪の毛をいじりながらため息をついた。
「…どうぞ?」
許可を貰ったのなら、行動力が尖っている私はすぐに動く。
紅さんの身長は私より大きかったので、容易く抱きつくことが出来た。
「ちょっと。濡らさないでよ」
「ごめっ…んなさ、い」
元々我慢していた涙だ。
止まることを知らない。