第60章 こてん
*****
何だか千春の声が聞こえる。
もう朝?
最近は1人で起きられていたのに…。
寝坊したのかな?
「ん〜…」
体が信じられないくらい重い。
それにここは……家では……ない?
「…」
無理だ。
頭も回らない。
ぼおっとする。
「あたま、いたぁあぃ…」
ん?
誰かの腕の中?
誰?
「起きたか」
声がワンワンとうねりながら、耳を通る。
耳障りな他ない。
身の安全を守るため、最近では防御しながら寝るようにしていた。
何も掴まないで体を起こすと、浮いているために滑って落ちてしまうため、何かに捕まる必要がある。
今日は近くに適切な棒があった。
「んしょ…」
その首に腕を絡ませて、頑張って起き上がる。
体は鉛のように重く、頭なんて支えるのが精一杯なほど重かった。
「どうだい?この状況は」
「ん〜…うるさいなぁ…」
視界もぼんやりしているし、なかなか声が聞き取れない。
前にもこんなことがあった気がする。
あの時は……そう。
病院で悟が……なんだっけ。
「夏油がデレてる。キモ」
「早く殺せばいいものを…」
周りの音が全て不快。
とりあえず、目を瞑ってこの人にしがみつく。
(気持ち悪い…)
この不快感はどうやって放出すればいいのか。
家で1人ならば、地団駄を踏んで唸るまでだけれど、今はそんなことをする気力すらない。
「殺せないんだよ」
「はっ…惚れたか?」
「違う。漏瑚は分かってないなぁ」
「何を」
「あの女の強さ」
気
持
ち悪
い
「…おいおい」
何も食べていないから、胃から出るものは体液くらい。
少量だけれどこの人の洋服を汚してしまう。
申し訳ないから腕を解いて体を少し揺らす。
そうすると、簡単に地面に落ちた。
衝撃は少しだけあるけれど、浮いている分マシだった。
『いつからご飯食べてないの』
千春の声だけは、体の内部から聞こえているような感覚になる。
理屈は分からない。
けれど、現実はそうなっている。