第60章 こてん
*****
詰みか。
呪力も感じないし、力も入らない状態で、手足が拘束されている。
無駄な足掻きはしたくない。
次の手が打てるときまで、待つのが最善だろう。
「顔を上げろ」
ゆっくり顔を上げると、そこには親友の体を使った悪人が、自分が愛する人を抱き抱えていた。
「最後に挨拶したいだろ?」
「…くだらねぇ。何がしたいんだよ」
千夏が動かないのは、僕のせいだろう。
その体が少し浮いているのは、千夏の術式?
この子は知らぬ間に何を会得したのだろうか。
「いいのか?挨拶しなくて」
このおちょくられている感じが、とても腹が立つ。
ただでさえ、親友の体をいいように使われて憤りを隠せないのに。
「まぁ。どうせ、この状況を見せるために起こさねばならないが」
「はぁ?そこまでして俺に恥をかかせたいのかよ」
「違う。
その逆だよ」
言っていることが全く理解できない俺は、傑の顔をしたこいつと千夏を会わせたくない一心で、この封印から抜けようと試みたが、やはり無理があった。
「千春の力を解放させるのは癪だが…」
『すぐにお前を殺す』
「勇ましい限りだ。だが、そこまで解放はしない」
第一に、この男は誰だ?
そして、千春の飲み込みの速さは今に始まった話では無いが、俺の目ですら欺くというのに何故わかったのか。
「さぁ、起こせ」
『…指図するな』
「安心しろ。今はこの女は殺せない。無駄な攻撃もしないと約束しよう」
まぁいい。
いつか知れればそれでいい。
今は真実の追及よりも、この状況を少しでも改善する方が重要だ。
”千春はすっごく美人なんだよ!いつもはじゃがいも千春ちゃんだけど…”
本気を出すと美人になるというじゃがいも千春ちゃん。
その姿は滑稽だけれど、その姿で何年も千夏を守ってきた。
『千夏、起きなさい』
頼れるお姉さん。
今日も彼女はその声で目覚める。