第60章 こてん
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『下向け。ガラスに気をつけろ』
「う、うん」
できるだけ吹き抜けの枠外に近づいて、ガラスを避けながら着地する。
落ちてしまった人達にも、なるべく優しい力でゆっくり着地してあげた……けど。
人が多くて、正直全員は無理だった。
「呪霊…」
『悩むな。行け』
悟の居場所が気になるけれど、今はこの周辺の呪霊をどうにかしなくてはならない。
私にはこの人達を救う責任がある。
逃げ惑う人々にはその場にとどまってほしいけれど、この状況で話を聞いてくれるわけが無い。
だから、片っ端から呪霊を叩いているのだが……
「なんで…?」
呪霊を殺しても、その個体が消えない。
次から次へと湧いてくるどの呪霊も、消えることなくその場に倒れていく。
こんなことは初めてだった。
「ぎゃゃ…」
「っ!」
私が右へ向かえば、左の人が呪霊に襲われ。
前に向かえば、後ろの人が襲われる。
どこへ向かっても、誰かしらが死んでしまうこの現状。
考えている暇はなかった。
「…もうっ……一気にやるしかないじゃん!」
怪我はさせたくないけど、死なせるよりマシだ。
自分の準備もできた。
このエリアにいる人達全員を────
『簡易領域!!!』
「え、あ、はい!」
突然、千春が叫んだ。
私は言われた通り、けれど訳の分からないまま簡易領域を作る。
次の瞬間には、辺り一面が静かになって、皆がその場で立ち尽くす様子が確認できた。
しかし、その直後、私の思考は止まり、領域は解け、その場に倒れた。
『五条悟』
「……千春?戻ってきたの?」
俊敏に動き続ける彼に話しかけるのは躊躇われたが、私の存在を示すことに重要な意味がある。
『話せるだけだ。千夏に手伝わせるか?』
「…いい。そのままでいてくれる方が気が楽」
『そう』
彼一人でこの世界を滅ぼすことが出来るくらいだ。
この位は楽勝だろう。
彼も、私も、疑わずして呑気な考えを持っていた。
自明だと思っていた。