第60章 こてん
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『調子を戻せ。いつ殺されるか…!』
「大丈夫〜。千春のおかげで呪力調節上手くいってるの」
千春だ。
本当に千春だ。
「じゃがいも千春ちゃんは?」
『無理』
そうなのか。
でも、お喋りできるのが本当に嬉しい。
「…まぁいい。精々足掻いてみろ」
『夏油!』
「…なんだ」
…千春?
『お前は……何がしたいんだ』
「というと?」
『何年も何十年も…!』
「…そういえば、お前は……なるほど」
どうしてみんなは私に理解できない話をするのだろう。
「そいつが鍵か」
『…いいか。私は』
「責務を果たすか?」
『…』
「私に封じられているというのに。先祖に似て、口だけは立派なものだ」
この人は…千春の過去を知っている?
どうして?
千春と傑が親戚だから?
『…千夏を甘く見るな』
「お前なしで何も出来ない奴に期待しろと?」
『お前は何も知らない』
こんなに感情的になって話す千春は久しぶりだ。
被せに被せられた会話には、私の知っている情報はほとんどなくて、ついていくのに精一杯だった。
「知らないのはその女だろ」
そう言い残して、傑(仮)は奥へ歩き始めた。
「…千春、大丈夫?」
『ああ…』
私は何を知らないの?
なんて。
聞けるはずがなかった。
私はたくさんの嘘に守られていて。
その嘘は私を守るためにあって。
『…』
「…」
今はこの下で、悟が頑張っているはず。
今は────
「千夏」
「へ?」
いつの間にか頭上へ上っていた傑(仮)が、にっこりスマイルで手を振る。
「そこ、落ちるよ」
バリッ
床となっていた絨毯が崩壊した。
「きゃっ」
次には一般人をせき止めていたガラスが割れ、人が雨のように降ってくる。
その隙間から見えた傑(仮)の顔は、悔しいけれど過去1番の笑顔で。
憎たらしさはどこにもないほど清々しいものだった。