第8章 夏の幻想
「かんせーい!」
「千夏っ!まじ可愛いよ、本当に!」
鏡の中に写る自分は、私の知っている八乙女千夏ではない。
「千夏、メイクしたこと無かったでしょ」
「うん…。これ、本当に私?」
パーツパーツが『いい女でしょ?』と主張している。
髪の毛は三つ編みだとか、編み込みだとか、多くの技術を使ってひとつにまとめられている。
前髪も巻いてもらって、スプレーをかけられた。
「メイクはコンプレックスを隠すものじゃない。元々の素材をいかに引き出すかだからね」
「千夏は元の顔がいいから、これくらいでも十分映えるてるでしょ?」
「これであの男の子に『私の事持ち帰って?』って言ったら、イチコロよ!」
持ち帰るも何も、同じ寮で暮らしているし。
第一、健全な女子高生に何を教えているんだ。
でも、私が言いたいことはこんなことではなく。
「こんなに可愛くしてくれて、ありがとう」
普段はこんなことに気を遣う余裕がない。
けれど、密かにこういう女の子らしいことに憧れていた。
流行りのスイーツを食べて、メイクをして、可愛い洋服を着て。
今日初めて本物の女の子になれた気がした。