第8章 夏の幻想
「何言ってんの」
「え?」
「千夏の大変身はこれからだよ」
3人がニヤニヤして距離を詰めてくる。
嫌な予感が、プンプンと……。
「ギャーーーー!いーーーやーーーー!」
「大人しくしなさい!」
「アヒャヒャヒャ!」
「じっとして!やりにくい!」
「それはマジで無理!無理だから!!」
「着なさい。これ、命令だから」
私たちの声を聞いて更衣室にやってくる人は数しれず。
そして、哀れみの目で見られた回数、数しれず。
『千夏の隣にいた女の子のレベルは本っ当に高すぎる。特に胸!!千夏があれに勝つのは不可能だから、大きさじゃなくて形で攻めるしかない!』
そんな愛華の言葉に始まり、私は3人の餌食に。
マッサージをされたり、水着を着替えさせられたり。
どこから水着を持ってきたのか聞くと、元々この旅行に参加していた優子と言う友達のことを話された。
優子は急用で一足先に帰ったらしいのだが、海水浴セットを美香のバックに入れたまま帰ってしまったらしい。
つまり、私が着ることになった水着は優子のもの。
さっき連絡すると『そういう事情なら水着あげていいよ。恋のアシストは任せろ』という力強いメッセージが返ってきたことで、この水着は私が貰うことに。
「やっぱりビキニは無理!」
「ワンピースなんてお子ちゃま。心菜レーダーによると、あの男の子はムッツリスケベ。弱点は大人っぽい女性…」
「心菜レーダーって何!?信憑性無さすぎ。五条はスケベじゃないもん!」
「はいはい。惚気はいいから」
「惚気けてない!!」
いつの間にか3人に対する嫌悪感は消え、顔馴染みの友達のように思えてきた。
「なんでここまでしてくれたの?」
「千夏が宝の持ち腐れだったから」
「私達は恋する女の子の味方なのでーす」
皆と海に遊びに来て、泳いで、食べ物をたくさん買って、硝子がナンパされて。
偶然に偶然が重なり、この3人と出会った。
どれか一つでも欠けていたら、出会ってなかったかもしれない。
こんな偶然の産物であるこの出会いは、私の人生にとって必要不可欠なものだった。
大人になった私には、そう思えてならないのだ。