第59章 綺麗事
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目が覚めると、朝と呼ばれる時間帯の前半。
にも関わらず、横で彼女は既に体を起こし、カーテンが微妙に空いた空間を見つめていた。
真っ白な背中を隠す長い髪の毛。
まだ寝たいと言う自分の声を遠目に、彼女を眺めていた。
「……びっくりした…起きてるなら言ってよ」
私を視界に入れると、途端にくぐもった目が晴れやかになる。
全く嬉しくない。
「また考え事ですか」
「ん〜…」
彼女は再び布団の中に潜り、私の胸に顔を埋めた。
「この間ね、悟にキスされたの」
「会ったんですか」
「内緒だよ」
2週間ほど前に京都に行っていた千夏さん。
体調と彼女の姉が行方不明であることを理由にしばらく仕事を受けていなかった彼女にとって、気分転換になっただろうか。
「七海ちゃんとのこと、嫉妬してたみたい」
「それはそうでしょう」
「そうかな。だって、前は普通だったから…」
五条さんに伝える義務はないし、何より面倒だったから、千夏さんとの諸事は誰にも言っていなかった。
主に千夏さんが不安を感じたら頼られるのだけれど、学長に呼び出された帰りに高専内で頼られたことがあった。
何があったかは知らないが、かなり取り乱していたものだから、つい廊下で抱きしめてしまった。
千夏さんも受け入れていた。
そこに虎杖くんと五条さんがやってきてしまった。
殴られる覚悟はあったけれど、千夏さんを離すつもりは毛頭なかった。
しかし、弁明を始めかけた千夏さんとは反対に、五条さんはいつものように軽く通り過ぎた。
虎杖くんのほうが気まづそうにしていたのをよく覚えている。
「互いに何年片想いしてたと」
「うん。今だって片想い…」
何を言うか。
そういう代わりに、千夏さんを抱き寄せる。
そして話を切替える。
「まずはお姉さんを探しましょう。和田さんと探すんでしょう?」
「うん。連絡来た。まぁ、和田さんの上司からだけど…」
千夏さんは布団の中で携帯をいじり、一通のメールを見せてきた。
「行きたくないなぁ…」
それはそうだ。
だってその場所は────