第59章 綺麗事
開始10分ほどで飽きてしまった私は、変な緊張を抱えながら徐々に七海ちゃんに近寄った。
肩が触れ合うと、そのまま頭を預けてみる。
予想通り、無反応だった。
今度は腕を組んでみた。
小さなため息が漏れた。
見上げてみると、七海ちゃんの喉仏が目に入った。
悟より出っ張っていて、より男らしい。
従来からその形が少しだけ不思議だったので、子供のように興味本位で手を伸ばした。
(ゴツゴツ…)
あまりに押すと苦しいと、悟に言われたことがあるから、優しくタッチするだけ。
やっと映画から目を離してくれた七海ちゃんは、私の頭を押しのけて再びソファーにもたれかかった。
「……こういう風に助けることは出来ないんですか」
「こういう風って?」
「映画を見たり、千夏さんが好きなお喋りをしたり」
随分と前に思考は止まっている。
勝手に動く体は、顔は、七海ちゃんに口付けしようとしていた。
けれど、すぐに手が間に入り、押しのけられる。
「いい加減にしてください」
罪悪感も、七海ちゃんの言葉を理解する力もない。
「私にも限界ってものが…」
「限界?」
「…」
何が七海ちゃんを変えたのかは分からない。
けれど事実として、七海ちゃんは小さなため息をついたあと、ゆっくりと、本当にゆっくりと、私を押し倒した。
「…私でなかったら、とっくに襲われてますよ」
痛々しく言葉を紡ぐ相手に、私の態度は誇れないもの。
「…悟はね、本当はとっても弱いの」
私が寝た後に、消化不良の気持ちを解消させる様子を何度も見てきた。
「私しか知らない。けど、私は何もしない」
「…」
「私じゃ、悟を助けられない」
そんなことは昔から分かっていた。
けれど────
「…失礼します」「ぇ?」
突如として七海ちゃんは私の首に舌を這わせた。
そのまま耳を攻められ、驚きのあまり体が固まる。
「…こうされたかったんでしょう?」
悟よりも低い声が直接鼓膜を震わせる。
無意識に声が漏れてしまう。
「大丈夫です。挿れませんから」
そして、次には手が服の間から侵入した。
体温と相対的に冷たいそれが腹部に当たるだけで体がすくむ。
けれど、体をよじろうとするとはばかれる。