• テキストサイズ

【呪術廻戦】infinity

第59章 綺麗事



「洗い物までやってくれちゃって、ごめんね?」
「そう思うなら離れてください」
「え〜…」


堕ちていく時は、どこまでも堕ちていく。
足を踏み入れてしまったら、何かにしがみつくしかない。


「じゃあ、抱いてよ」


口から零れた言葉は冷静さを欠いていた。
けれど、口に戻すことはできない。


「…」
「抱い、てよ、お願い」


七海ちゃんは何も言わなかった。
無視をしたのか、何を言おうか考えているのか。
ただ皿を洗う様子だけでは分からなかった。


「ねぇ、なな」「抱きません」


七海ちゃんは蛇口から水を出し、皿をゆすぎ始める。


「…魅力ない?」
「違います」


私の傷が癒えるわけでも、私が満足する訳でもない。
後に渇望する欲が増えるだけだ、と。


「…分かってる、んだよ」
「ええ」
「でも」


七海ちゃんのスウェットをギュッと握った。


「冷たいの。どこまでも、どこまでも冷えて、沈んで…」


本当に私の存在が許可される場所が無くなる。
そんな恐怖が私を支配した。


「悟が……あんな風に他の人、抱いてたらヤダ。みんなと一緒になりたくない。私は特別なのっ…!!」
「……千夏さんは唯一無二ですよ」


洗い物を終えた七海ちゃんは、手を拭いて私の頭を撫でた。
今はその優しさが嫌いだった。


「貴女程の人が埋もれるわけありません」
「…」
「さて、今日の仕事は?」
「……最近、仕事貰ってない」
「そうですか。私は午後から1件あるので、それまで映画でも見ましょうか」


強引に話を切りかえたことは分かっている。
でも、従わざるを得なかった。

七海ちゃんの家には静かな日常系の映画しか無かった。
今もフランスかどこかのごく普通の貴族が画面いっぱいに写っている。
グロテスクでハチャメチャな映画が好みである私にとって、この時間は退屈そのものだった。


/ 1115ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp