第59章 綺麗事
まぁ、確かに昔からこんな感じだけど…。
今日はいつも以上に目を合わせてくれない。
「七海ちゃん、何作るのー?」
「なんでついてくるんですか」
冷蔵庫を開けた七海ちゃんは、きっと1番に媚薬が目に入ったと思う。
舌打ちにならない音と共にこっちを睨んできた。
面白い。
「さっき見た感じ、オムレツとかいいかなって思ったんだけど」
「じゃあオムレツにしますか」
「やった」
七海ちゃんはプレーンのオムレツを作ろうとしたみたいだけど、ひき肉が余っていたからそれを入れようと提案した。
「〜♪」
「…邪魔なんですが」
七海ちゃんの背中に抱きついてその温もりを感じる。
『ねーぇー』
『なぁに?』
『もう…』
『卵焼きの端っこ、ちょうだい?』
『勝手に食べなさいよっ』
『あーんは?』
…嫌なことを思い出した。
綺麗で好きな過去だけど、今の私には重い記憶だ。
「どうしました?」
「えっ、いや…」
「…」
やばい、不安な顔をさせてしまった。
「お腹すいたなぁ」
「…すぐ作ります」
「ん!待ってる〜」
「離れてくれたら、もっと早くできるんですけど」
「え〜?なんか言った〜?」
心が痛い。
また地面がなくなってしまったように、足元がふらつく。
このままどこまでも落ちて行ってしまうような…。
「千夏さん」
「はいっ!?」
「…できましたけど」
「あ、うん…」
急いで棚から皿を用意して、レタスを数枚広げた。
「よっ!綺麗にもりつけろ〜?」
合いの手を入れて、ケチャップを用意する。
ご飯は昨日のが残っていると言うので、勝手に盛らせてもらって。
「いただきます!」「…いただきます」
今は不安になる時間では無い。
今は……この時間を楽しもう。
「千夏さん」
「え、ケチャップついてる?」
「いや、米粒…」
「えっ、マジ?」
本来であればありえないこの時間。
難しいことを考えるのは後にしよう。