第58章 特別編①
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「準備おっけー?」
「いいよー」
戦うのは嫌いなくせに、こういう喧嘩をするときには過去稀に見る笑顔をうかべる。
「よーい…」
「「どん!」」
いやぁ、可愛いなぁ…なんて思っていたら、開始早々その笑顔で駆け寄ってきて。
思わず手を広げてしまったけれど、
「ばーか」
千夏はそのまま地面を蹴って、僕の首めがけて足を振り下ろした。
手でガードはしたものの、昔とは比べ物にならないほど重い撃力。
「降参?」
「なわけ」
なるほど、ちゃんと基本的な型は身についているし、ちゃんと鍛錬したんだ。
元々体は柔らかかったから、それゆえのトリッキーな動きも充分だし、実践となれば横に出る者は中々いないのでは?
まぁ、僕は負けないけどね♪
しばらく交えた後、千夏の足元の隙を狙って姿勢を崩させる。
元々全体重がその足に乗っていたし、そのままひっくり返った千夏は鈍い音を響かせて動かなくなった。
「はぁ…はぁ…」
流石にこれだけ動けばお互い息は切れる。
痛そうな音もしたし、泣くか?と思って見下ろしてみると、その目はまだ輝いていた。
「すごぉい!今の何!?」
「普通に足引っ張っただけだよ。途中まで良かったんだけど、上半身動かしてる時に、片足に全体重乗せすぎ」
「あー、それよく言われてた。頑張って直そうとしてるんだけどなぁ…」
よっこらせ、と立ち上がった千夏は倒れる前の姿勢を再現した。
あれだけ動いていたのに、自分の動きを覚えているのか。
「ここで、こう…」
「その時に、こっちの足を…」
「…わぁあぁ…っと」
「大丈夫?」
「平気平気」
足の向きを変えて。
「これだと不安定だから…もっと重心を下げるか、基底面を広くとるか」
「基底面ってなに?」
「…千春に教わらなかった?」
「そういう難しいことは教えてもらってない。なんか、動いて覚えろ!って感じだったから」
…千春も中々ハードなことをするなぁ。
でも、千夏に難しいことを教えたら、考えながら動いて隙が余計に出来そうな気がしなくもない。