第8章 夏の幻想
「ぷっははは!あんた、ちょっとこっちおいで」
「は、え!?」
細い体から、想像もつかない強引さ。
ランウェイを歩くように人混みをかき分け、更衣室に連れていかれた。
これを拉致と言わないで、なんと言おう。
「な、何すんですか」
武道を習った経験はないけれど、それっぽい構えをとって警戒する。
「あんたみたいな強気な女、嫌いじゃないよ」
「ぶりっ子されるより100倍マシだよねー」
げらげらと笑う3人の女は、隣あったロッカーに鍵をさして、リュックの中をゴソゴソといじった。
「名前は?」
「…千夏」
「へぇー!いいね!」
「可愛い名前〜」
さっきまでの猫なで声はどこにいった。
これだから女は怖い。
「千夏はあの男の子が好きなの?」
「…あんた達には関係ないだろ」
「ぷっ。可愛くねー」
「っ、触るなよ…!」
私は殺されてしまうのだろうか。
いざとなれば大声を出して…、等とどのようなシチュエーションになっても対応できるように、周りに気をつけた。
「はい、座って〜」
「うわっ!」
「暴れない、暴れない♪」
青色のベンチに座らされ、周りを囲まれた。
肩も抑えられて、簡単には逃げ出せない。
「何するつもり」
「そんな警戒しないでよ」
「この状況で警戒しないやつがいるか、ボケ」
ウェットティッシュのようなもので、顔を拭かれる。
痛いと言っても、我慢しろと言われる。
「千夏の威勢の良さは十分分かった。だって、私達に突っかかってくるくらいだもん」
「あはは!ほんとにねぇ」
それは自分でも分かってる。
スレンダーにボンキュッボン。
かきあげた髪をなびかせれば、誰もが振り返る。
3人はそんな魅力的な女性なのだ。