第8章 夏の幻想
「え~、俺、そんなにかっこいい~?」
「めっちゃかっこいいですぅ!一緒にご飯食べましょうよ~」
少し遠くから聞こえてくる会話に、すでにイライラマックス。
(なんだあのテンション。女どももわっかりやすいほどの猫なで声を披露してくれちゃって)
硝子に『殺さないようにね』と念を押された。
「あのぉ。そこ、どいてくれませんか~?」
何この女、という目で見られたが、気にしない。
「さっき向こうにいた子達?」
「そうそう。俺たちの連れ~」
深く息を吸って、吐く。
手を後ろで組んでいなかったら、鉄拳が落ちていたかもしれない。
「そうなんだ~。私たちも一緒にご飯食べてもいいですか?」
(このアマぁ……)
目の奥にギラギラとした欲望の塊が伺える。
いかにも、クラスの一軍に所属していて、絶対的な権力を持っていたタイプだろう。
ひとにらみすれば、誰もがいうことを聞いてきたんだろう。
けれど、私は蛙ではない。
「ダメで~~す」
一気に女の顔が引き攣る。
この変化を撮影してSNSにアップしたら、きっと急上昇ランキングに乗ることだろう。
「私達は4人で遊びたいんで。こうやって遊びに行くの、滅多にないんですよ」
それに、と付け足す。
五条に跨り、頭を鷲掴みにする。
「このバカを落としたいんだったら、私を敵に回すことになるよ」
傑方向と、硝子方向から、吹き出す音が聞こえたけれど、構わないだろう。
そして、女どもからも笑い声が聞こえてきた。
これには少し引っかかる。
「自信満々じゃん。あんた、面白いね」
「でしょ。貴方達じゃ私の相手になんないから、帰った帰った!」
しっしっ、と手で払うと主格の女を中心に大笑い。
そこには私の連れも入っていた。
「あはは!千夏、かっこいーじゃん!」
「まさかそこまで言うとは…ククク」
なにさ。
本当のことを言っただけなのに。