第58章 特別編①
「食べていい?」
「うん」
「一緒に食べよ」
「私いらない。全部食べて」
「いーから」
ハートのケーキを真っ二つにして渡してくる。
おいおい、不穏すぎるだろ。
「…じゃあ、貰う」
「うん。いただきまーす」
半分と言ってもまぁまぁな大きさがあるのに、それを一口で…。
私はそんなに口が大きくないので、貰った欠片の半分くらいを口に含む。
「…どう?」
喋れるわけが無いことを分かっているが、悟は頑張って飲み込んで話そうとしてくれる。
「…めっ」
「ゆっくり食べて」
面白いくらいに従順で。
ゆっくり確実に飲み込んだ後、もう1度。
「めっちゃ」
「…めっちゃ?」
「……うまい」
ぶわっと胸が熱くなる。
まずいとは言われないと思ってたし、美味しいって言ってくれるって分かってたけど、いざ言われるとやっぱり嬉しくて。
作ってよかったと心から思う。
「てか、ハート割ってんじゃん、やば」
やっぱり気づいてなかったのか…!!
なんでニヤニヤすんの?
「ま、いっか」
「よくないって。私の愛が真っ二つなんだが」
ぱっかーんしちゃってたよ。
綺麗に、ぱっかーん。
「いいんだよ。俺が頑張るし」
「ん?修復するってか?もう食べ終わってるけど」
この人の言うことは、たまによく分からない。
主語に限らず、大事なところが欠けているのだ。
きっと、本人以外には分からない。
伝えようとしていないのだ。
「んじゃ、さんきゅ。帰るわ」
「あ、まっ…」
「ん?」
どうしても聞きたい。
明日からは今みたいに、普通に話してくれる?って。
でも、言葉にしてしまったら、五条を悲しい顔にさせてしまいそうで。
「…帰るよ」
「待って」
「何」
「……その、なんでそんなに」
冷たくするの?
目を見てくれないの?
「ずるいこと言っていい?」
「…うん」
「千夏を守るため」
ずるいことってなんだろうって考えていたけれど、これはかなりずるい。
「…分かった」
「じゃあ、おやすみ」
「…ん」
飲み込むしかない。
私が我慢しなくてどうする。
苦さが甘さを包み込む、そんなバレンタイン。
それから10年が経ち…
2回目のバレンタイン。