第57章 特別講師
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いい汗もかいたことだし、そろそろおやつの時間にしたい。
ここに来る前にお菓子は沢山買ったから、歌姫を探して一緒に食べることにしよう。
「う〜た〜ひめ〜」
彼女の名前を大声で繰り返し言いながら廊下を進む。
誰一人として反応してくれないのは、私が嫌われているからだろう。
これに関しては今更何も感じない。
けれど
「歌姫さんなら2階端の物置の鍵持ってったので、そこにいると思いますよー」
このような些細な優しさは、とてつもなく嬉しい。
「……あ、りがto」
「いえいえ」
昔に比べたら、最近の皆はどこか優しい。
あからさまに避けられることは今でもあるけれど、気遣いをもって接してくれる人が増えた。
(私、上手く生きられてるかも…!)
1人になりたくないから、誰でもいいから隣にいて欲しくて。
いつしかその気持ちが大きくなって、誰一人死んで欲しくなくて。
でも、それを掲げることは、荒れ狂う海を生身で泳ぐようなもの。
それでも…………例え友達がその反対の生き方をしていても、私はこうやって生きていくと決めた。
この生き方をする私を大好きだと言ってくれる人がいるから────
ガチャ
「歌姫ぇ……?」
……ん?
部屋の中には人間が2人。
片方は蹲り、片方は私を見て口をぽかんと開けた。
大事なのは、どちらも歌姫でないことと、その片方が私の元彼兼親友であること。
そして、もっと大事なのは、蹲る女の子の洋服がはだけてること。
「ま、待ってよ!ストップ!」
「あ?じゃあ、バカにもわかるように説明して」
「ちょ…!」
「どーん」
思っている力の数倍が出力してしまう私の呪力は、言葉と同時に悟に乗っかって弾けた。
「大丈夫?」
冷たい金属が顕になっている和田さんに駆け寄って、自分の上着をかけた。
「千夏っ」
「あんたはしばらくそうしてなさい」
「え〜…」
悟からは後で話を聞く。
今は────
「そういうのやめてください」
和田さんはその上着を叩きつけて、真っ赤な顔でこちらを睨んだ。
悟ではなく私を…。