第8章 夏の幻想
極めつけは、こいつだ。
この白髪。
「硝子ぉ。私、生きててよかったァ!」
「…私は硝子じゃない」
「あ、ごめん。傑だった」
バッと顔を上げると、私が抱きついているのは傑だった。
今硝子に抱きつけば、警察沙汰になりかねないので、本能的に硝子を避けてしまったようだ。
「俺の魅力にくびったけっ感じ?」
右サイドに輝くは五条悟。
傑同様、濡れた髪が色っぽくさせている。
「ムカつくけど、生まれてきてよかったァァ!!」
「ちょ…、いい加減離れてくれ」
「あ、ごめん………幸せだァァ!!」
「千夏……、もういい。好きにしてくれ」
視界に五条が入ってくるだけで、我慢できないほどの叫びたい衝動に駆られる。
右を見れないからと言って左を見ると、硝子がいる訳で。
硝子は硝子で私を危険な領域に誘ってくる。
傑はというと…。
「すまない、傑。私は五条以外はタイプじゃないのだ」
「知ってるよ。私も千夏はタイプじゃないしね」
「あ?」
「え…。私だけ責められるのか?」
「…なーんてね!傑、面白すぎ!」
胴に回していた手を取り、1歩後ずさってから写真を撮る。
傑も普通にイケメンだと思うのだけれど。
どうやら、私の脳と心は五条としかマッチングしないような仕組みをとっているみたい。
「千夏、携帯貸して」
「うわっ、ちょ…」
五条に携帯を奪われ、バランスを崩す。
体勢を立て直している間に、シャッター音が聞こえてきた。
「あー!私、絶対ブスだった!」
「ほら、もう1回撮るから」
手をあたふたさせ、結局いちばん無難なピースに落ち着く。
いつも盛れるポーズ等を仕入れているが、カメラを前にして行うポーズは9割ピース。