第56章 チホちゃん
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「へえ。昨日会ってきたんだ」
「そう。こっちきてよ」
「あれがないんだもん。爪楊枝どこ?」
「そっちじゃない。左の上から3つ目の段」
「ぐちゃぐちゃ。えーっと………お、あった」
元ある場所尾に戻しなさい、とお𠮟りを受けて。
少し嬉しかった私の下に、剥かれたブドウと爪楊枝がやってきた。
「で。大丈夫?」
「うん。少しだるいけど」
「親の方は?」
「…一応、縁切って欲しいって言った。私と関わり持ってると、2人にまで被害がいっちゃうから」
チホちゃんのように食べさせてくれる悟。
酸っぱいけど甘い、美味しいブドウだった。
「無理しすぎ」
「ごめん」
「僕じゃなくてもいいから、頼ってよ」
迷惑をかけまいとしているのに、皆は迷惑をかける私を望んでいる。
「…悟は昔の私と今の私、どっちが好き?」
「何この質問。何か言われたの?」
「どっち?」
「両方」
絶対そう答えると思って聞くなんてずるい。
「…ありがと。好き」
ブドウを流し込むように飲み込み、悟の胸に身を寄せた。
「千夏は何も変わってないよ」
「…昔の方が野蛮だったってみんなに言われるよ?」
「今の方が守るものが多いから、そう見えるんだよ」
悟は口が上手い。
嫌なこともポジティブな言葉に変えてくれ、いつも私を助けてくれる。
「…でも、本当にピンチの時には全部捨てるんだよ」
「そしたら?」
「そしたら、千夏は誰にも負けないから」
守るものがあれば強くなれると言う言葉を否定はしないけれど、最終的にはそれを捨てる勇気も大切だ、と悟は言った。
本当にその通りだと思った私は単純すぎるだろうか。
「そうだ。リンゴも食べる?」
「ちょっとだけ食べたい」
「じゃあ、ちょい待ち」
立ち上がった悟だけれど、ちょっとした異変が。
「…何で勃ってるの?」
「大丈夫、まだ半分だから」
男の人の体はよく分からない。
半分、というのも分からないし、何が大丈夫なのかも分からない。
「痛くないの?」
「少し待てば平気」
だからほかのことを考えさせて?と、私から顔を背け部屋の掃除を始めた悟。