第56章 チホちゃん
「じゃあ僕が」「チホちゃん、あーんして?」
「え、あ……はい」
またまた悟さんはしょぼんとしてしまった。
「ん~、美味しぃ!」
「それは良かったです!」
悟さんが少し可哀想だけど、何故か楽しそうに見えて嬉しかった。
「…私、こんな風に看病してもらったの初めて」
「……よかったです」
すると、千夏さんはぽつりぽつりと話し始めた。
「私ね、親が5人いるの」
「5人、ですか?」
「そう。昨日ね、その内の2人に会ってきた」
口をほふほふさせて、鼻を詰まらせて。
「…どうでしたか?」
「昔のままだった。でも、また話せなかった」
「会えなかったん、ですか?」
「ううん。ちょっと…色々あって、帰ってきちゃった」
泣いてないけど、声が泣いていた。
「…私ね」
千夏さんが、私の頬を撫でて笑う。
痛々しくて、私の心がきゅうって縮まる。
「…親に愛された記憶が……曖昧だからさ……。自分の子供にはいっぱい綺麗なもの見せて、美味しい物食べてもらって……毎日可愛いよって言うって決めてるの」
「…千夏さんのお子さんはきっと、とてつもなく…可愛いでしょうね」
「ありがと…」
ちらりと後ろを確認すると、悟さんはキッチンの棚をあさってた。
千夏さんは悟さんと結婚するのに、どうしてあんな顔をしているのだろうか。
「ねえ、チホちゃん。私、フライドポテト食べたい」
「フライドポテトの準備は…」
「うん。本当に申し訳ないんだけど、買ってきてくれないかな」
千夏さんはベットから降り、自身の財布からⅭ1,000円を取り出した。
おつりで好きなもの買ってきていいから、と言われ…。
「本当にごめんね」
「いえ!ポテト以外に食べたいもの、ありますか?」
「ううん。ありがと」
マンションを出ると、そこには黒い車が停まっていて、タイミングよく人が出てきた。
黒いスーツにマスクをつけた女の人。
目が合ってしまったから、軽く頭を下げて前を素早く通り過ぎた。