第56章 チホちゃん
「悟さん!準備できました!」
家では正装で、学校に行く時はシンプルな格好。
「お洒落してきてね」と言ったので、チホちゃんなりにお洒落な格好なのだろうけれど…。
「そのTシャツ…」
「サマさんに買ってもらったんです!」
やっぱり。
キリンの顔が堂々と描かれたシャツを買う人なんて、千夏しか知らない。
「私の一張羅なんですよ」
自信満々のチホちゃんが可愛くて、思わず笑ってしまった。
「お、可笑しいですか…?」
「いや、可愛いよ」
パァッと顔が明るくなるチホちゃん。
「地図は持ったよね」
「はい!」
「水とお菓子は?」
「あります!」
「ハンカチも持った?」
「ありますよ〜。私、もう10歳です!」
「はは、ごめんね」
チホちゃんがこーーんなに小さい時から見てきたから、すこし心配になる。
滅多に1人で出かけない子だし。
「あ、そうだ。お小遣い」
財布から綺麗なお札数枚出して握らせる。
「何かあったら、僕の携帯に連絡して。家の電話はダメだからね」
「はいっ!」
出かけるように携帯を買ってあげた方がいいか。
でも、そうなると全員に買ってあげないと不公平になる。
「あら、チホちゃん。お出かけ?」
「はい!初枝さんの許可は貰ってます」
「たまにはいいんじゃない?坊ちゃんもご一緒ですか?」
「いや、僕は行かないよ。初枝さんに話があるから」
「そうですか。初枝さんなら炊事場で下準備してるはずです」
「ありがとう」
家で千夏の話は大きな声でできないけれど、外の方が危険いっぱい。
だから、初枝さんの部屋にお邪魔させてもらう予定。
千夏の件をそろそろハッキリさせないといけない。
「それでは、行ってきます」
「気をつけて」
「はい!ありがとうございます」
元気なチホちゃんの姿が見えなくなるまで見送る。
「坊ちゃんも心配性ですね」
「そーお?」
「お子さんがお生まれになったら、甘やかしそうです」
子供、か。
そろそろ真面目に考えないといけないと思うと、悩みの種が増える一方。
「初枝さーん」
「あら、坊ちゃん。こんな所まで…何かありましたか」
「ちょっと話があるんだ」
「何でしょう」
けれど、その前にはっきりさせないといけないことがある。
食えない相手だ。
なるべく短時間で終えるよう努力しよう。