第55章 こうするしかなかった
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「義兄さんになんか言われたのか?」
「…別に」
「別にって…。言ってくれないと私達、分からないのよ?」
同じようなことを昔、硝子に言われた気がする。
家族も友達と同じなのか?
「…2人に恨まれるくらいなら、その前に逃げたいって……思った」
「恨む?千夏を?」
「そんなことあるわけないだろ」
「でも、憎んでたでしょ?」
「「…」」
2人は顔を見合わせた。
ほら……なんて思っていたら、お父さんが詫び始めた。
「千夏が急に宗教的な学校に行くって決まって。夜蛾先生も詳しくは言えないと、情報を回してくれないからイライラして…。つい千夏を責めてしまった」
「誤解させたよね。ごめんね…」
2人のことを何度も忘れようとしたせいで、あの時自分が何を感じ、考えたかなんて覚えていない。
すっからかん。
でも、私の未熟な思考が誤解をうんでいたのだろつということは分かる。
「しょ、正直…夜蛾先生のお顔が少し怖くて…。千夏に危ないことをさせてるんじゃないか、とか…。洗脳されてるんじゃないかとか…すっごい不安だったの」
「はは…私も先…学長の顔は怖いよ」
「だ、だよね」
「…でも、私達のことは詳しく言えないの」
「はい、すとーっぷ」
パン、と。
和田さんが手を叩いた。
「先輩。それ以上はやめときましょ。引き返せなくなります」
和田さんはマスクをつけ直して、目元を笑わせた。
口元がどうなっているかは分からない。
けれど、とりあえずその目は私の嫌いな目だった。
「家族間の話に口を挟むことを、先にお詫び申し上げます」
そして、セールスマンのように人当たりの良い声で先導する。
「御二方が先輩のことを知りたいと思う気持ちは十二分に分かります。しかし、どの会社にも企業秘密があるように、私達の仕事にも秘密があり、その秘密は他と比べて重いものです。先輩は情で動く方ですから、ナニカが漏れる前に先に先制させて頂きました」