第1章 千夏様
「今日は何の日だ〜?」
数歩前に立っている五条の背中に投げかけた。
「さあ」
考えようともしてくれない。
なんでこいつがモテるんだか。
「私が朝一で五条の部屋の前に置いた袋は、見てないのかな?」
そのまま、本当に、一言も発さず、五条は消えた。
びっくりするほど、静かに消えていった。
サザエさんが終わってから一時間。
やっと私は腰を上げた。
せっかくサザエさんを見逃してまで、ここに来たのに。
得られたものは、げんこつと人形と、悲しい言葉。
今度は順路に沿って部屋に戻ると、ドアに紙袋がぶら下がっていた。
中には私の大好きな飴の入った缶と、未開封の呪いの手紙。
「あいつ…」
忘れてねーじゃん。
今日が何の日だか、分かってんじゃん。
手紙が未開封のまま送り返されることは分かっていた。
毎年そうだから。
部屋に入ると、テレビがつけっぱなしになっていて、普通のバラエティーが流れていた。
ぬるくなったコーヒー牛乳と、ミニドーナツ。
その横に紙袋を置いた。
(風呂…。だる。明日でいいや)
今したいことは一つだけ。
五条に会いたい。
どうしようもなく、五条に抱きしめてもらいたい。
ただそれだけだった。