第55章 こうするしかなかった
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「…」
「…」
お母さんとの再会がこんなに静かなものだとは想像していなかった。
虫を見ただけで悲鳴を上げ、私が転ぶだけで泣いていた人だったから…。
「……本当に、千夏?」
「うん、久しぶり」
最後にお母さんと会ったのは、年齢にして14の時。
「……はぁ、もう……」
濃い化粧の匂い。
昔はこれが苦手で。
だから、私のためにお母さんはメイクを止めて。
「会いたかった…」
私より少しだけ背が低いお母さんは、その化粧の匂いを周りに漂わせて、私を抱き寄せた。
「…うん」
嘘は自分を殺すと教えられたから、なるべく嘘はつかないようにして。
「手紙、読んでくれたの…?」
「まぁ、ね」
私の返事が相当嬉しかったのか、お母さんは涙目ながらに満面の笑みを浮かべて、息継ぎなしにペラペラと話し始めた。
「嬉しい!さ、中に入っ…ああ!今、家に何も無いんだった何か食べたいものある?すぐに買ってくるね何が食べたい?とりあえず適当に買ってくるわしょっぱいものと甘いものと辛いものと…とにかく全部買ってくるわ!適当にくつろいでてお風呂に入ってても構わないからほら、早く後ろの人もどうぞどうぞ!千夏のお友達?もう何でもいいわ早くお入りなさい!」
良くもまぁ、ペラペラと…。
おっとりとしたお母さんの早口に感動していると、お母さんは直ぐに買い物に行ってしまった。
いくら自分の子供だからって、何年も会ってなかった私に家を預けていいのか?
……お父さんに怒られるのではないか?